最高裁判所第一小法廷 昭和49年(あ)1513号 決定 1975年3月20日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人加藤茂の上告趣意第一点について。
所論は、憲法三一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張にすぎず、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
同第二点について。
所論は、原判決は、森林法一九七条にいう産物には、森林から取り出して利用することのできる岩石も含まれると判示しているが、この判断は所論引用の判例に違反するというのである。
もし所論のように、岩石が同条にいう産物に含まれないものとすれば、被告人の行為は同条の罪よりも重い刑法二三五条の窃盗罪を構成することになるから、所論は自己に不利益な主張であつて上告理由として不適法なものといわなければならないが、以下、この点について職権をもつて判断する。
なるほど、所論引用の判例(大審院大正九年(れ)第一七〇〇号同年一〇月一九日判決・刑録二六輯七二三頁)は、右規定と同趣旨の旧森林法(明治四〇年法律第四三号)八三条につき、同条にいう産物には、森林の土地を組成する岩石は含まれないと判示したものであるから、所論のとおり、原判決は右判例と相反する判断をしたものといわなければならない。しかしながら、森林法一九七条の趣旨、文言及び沿革を考慮すると、同条にいう産物とは、無機物たると有機物たるとを問わず、森林から産出する一切の物をいい、岩石もこれに含まれると解するのが相当であり、原判決の結論は正当というべきである。したがつて、所論引用の大審院の判例を変更し、原判決の判断を維持することとする。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(下田武三 藤林益三 岸盛一 岸上康夫 団藤重光)
弁護人加藤茂の上告趣意
第一点 <省略>
第二点 原判決は、大審院の判例と相反する判断をしている。
すなわち大審院の判例(大正九年一〇月一九日、刑事判決録第二六輯七二三頁)は「森林法にいわゆる森林の産物とは天然に生育したると植樹の方法によるとを分たず竹木類の根幹枝葉はもちろん下草、落葉、落枝、樹実、菌蕈類等山林より発生生育する一切のものを包含するも、これを生ずる基本山林地を組成する土砂岩石の如きはいわゆる産物の中に入らざるものと解すべく云々」と判示している。しかるに本件原判決は、前述のとおり、河川に存する流転石を以て森林の産物としているのであるから、前記大審院の判例と相反する判断をしていることは明白である。